中古住宅のインスペクション(宅地建物取引業法の改正)
中古住宅を安心して買えますか?
インスペクション(建物診断・検査)の説明義務などを規定した宅地建物取引業法の一部を改正する法律案が、2016年5月27日、参議院本会議にて全会一致で可決、成立。6月上旬までに公布される見込み。その後インスペクション関連の規定は2年以内、その他の規定は1年以内に施行されます。
既存住宅市場の活性化にむけ、取引時に住宅の傷み具合など状態を調べる建物の状況調査(インスペクション)を通じた情報提供の充実を促進するものです。
不動産取引の媒介契約締結時・重要事項説明時・売買契約締結時に宅建業者は「インスペクション」の説明が義務付けられます。(以降、建物診断・検査・建物の状況調査=インスペクション)
宅地建物取引業者にとっては、中古住宅の売買に関して以下のことが求められます。
1;買主などに対して、インスペクションの結果の概要などを重要事項として説明すること。
診断を行う場合には診断結果と内容を説明し、売主・買主が確認し契約書に記載する。
→インスペクション(建物診断・検査)の有無の記載を重要事項説明と契約書の説明事項にするということです。
診断の有無を記載し、診断をした場合にはその説明を行う。つまり、現時点ではインスペクションを行うことが義務ではなく、その建物が現在どういう状況にあるのかを診断の有無に基づき説明することにとどまります。あくまで、契約顧客に「この住宅はインスペクションがなされていません。インスペクションというものがありますが、それを行いますか?」と意向を伺うということになるものと考えます。現況「診断なし」の記載でインスペクションをしなければ、建物の状況は不明なまま契約を行うことになります。いずれ買う側の意識も向上し、建物概要にインスペクションがされた建物「住宅診断あり」の住宅を選ぶことが必須条件になる時がくれば、意味をなすものかもしれません。
購入する側は、「診断なし」の説明をそのまま受け入れないことが大切です。インスペクションを行えば、調査報告書として建物の状況を確認することができます。その報告書の内容についてしっかりと説明を受けましょう。あるいは、販売業者のあっせんにより行われたインスペクションに信頼が置けない場合も考えられます。その報告書を預かることができれば、医療にもあるセカンドオピニオンのように、他のインスペクションの専門家に相談をしてみるのも良いかもしれません。場合によっては、もう一度その建物のインスペクションを行う必要性もでてくるかもしれません。
2;売買などの契約の成立時に、建物の状況について当事者の双方が確認した事項を記載した書面を交付すること。
→これも、診断の有無とその内容の説明を行ったという契約上の書面を交付するといったことにとどまります。
3;媒介契約の締結時に、建物の状況調査を実施する者のあっせんに関する事項を記載した書面を依頼者に交付すること。
→ 診断は不動産業者が斡旋する業者が行うことになるようです。そこに客観性や中立性はどのように保たれるのでしょうか。売主が行う診断結果を果たして信じてよいものでしょうか。斡旋される関係性にはなんらかの利害関係があるものと考えるのが自然なことではないかと考えます。第三者性をうたい、会社名は違い、資本関係がないように見えても複雑な関係性を持つことはどの分野にもあることと考えます。利害関係のない業者によるインスペクションが行われることが望まれます。
国交省は平成25年(2013年)に「既存住宅インスペクション・ガイドライン」というものを出しています。項目2.4「公正な業務実施のために遵守すべき事項」には客観性・中立性の確保について示されています。
参照:国土交通省HPより引用 http://www.mlit.go.jp/common/001001034.pdf
このガイドラインの概要をまとめます。
:インスペクション業務を行う時、宅地建物取引業や建設業やリフォーム業者を営む場合や売主を含めた資本関係がある業者である場合には、依頼主に明らかにすること。
とあります。特に禁止はされていないようです。例えば、インスペクションを行う者が、リフォーム 業者の場合、リフォーム工事の請負契約の締結に関する勧誘等はリフォーム 業者として行うものであり、インスペクションを行う者として検査 結果の報告等の検査業務とは別であることを明らかにすれば可能ということです。
:インスペクションを行う者、自らが売主となることは禁止。
:インスペクションを行う者は、流通、リフォーム等の関係事業者から金銭的利益の提供や便宜的供与を禁止。
:インスペクションを行う者は、依頼主の紹介や推薦等を受けたことに対する謝礼等を提供することを禁止。
売主はお金をかけたくない、子会社にインスペクション業者を持っていればそこに診断させることにより利益を得て、都合良い甘い診断を行う可能性も考えられます。また、売買する家の不具合を指摘されることは、面倒なことでもあり、売買成約のマイナス要因にしかならないので販売業者にとってはメリットがないという話も聞きます。現実の話として、そんな面倒なことをするくらいならば、何も言わない他の人に買ってもらいたい、というのが本音のところでもあることを耳にします。
インスペクションを味方にする
中古住宅においては、なるだけお金をかけずに現状を引渡というのが当たり前であることと、当然不具合箇所も多かれ少なかれ存在しますが、その不具合が具体的な項目や金額となって売主と買主に認識されていないこともあるのではないでしょうか。建物の資産価値は建築後は減衰するばかりで、築年数を重ねた住宅を良い状態で売りたいと思っても実際に改善させるためのその費用を負担するのは売主です。その費用負担の回収を建物の価値として販売価格に上乗せすることができる流通の仕組みになっていない現状があります。住宅の資産価値の評価を合わせて行わないことには、インスペクションは売主へのデメリット(ケチをつけること)としてしか受け入れられないのかもしれません。
今回の法律の改正は、買主と売主とのトラブルを回避するための契約上の確認事項が取り決められたといった第一段階の印象があります。中古住宅の流通をはかるためには、必ずインスペクションをしなければならないといったきつい縛りを初めから要求することは難しい一面もあるのでしょう。住宅は購買経験が浅い商品でもあるため、インスペクションの普及は一般の方にとって中古住宅の見極めを行うために大きな力となります。しかし、インスペクションの客観性と中立性を傘にして、商機とばかりに不誠実な売買やリフォームへの斡旋といった不安も懸念されます。それによって中古住宅を見極めのリスクが大きくなり、新築の方が安心という選択をする人もでてくるかもしれません。この改正をきっかけに、売主と買主の意識に変化が現れ、段階を経てより良き方向へ改善されていくことが望まれます。
売主主導の情報だけを全て受け入れるだけでは、なかなか良い住宅に巡り会えることが難しい背景も少し理解できたのではないでしょうか。買主がインスペクションを自分の味方となるツールとすることが大切です。Pプラスは客観性と中立性を持って、専門家の立場で購入者のプラスαの力となるサポートを行っていきます。