打ち合わせや契約に不可欠な図面や見積りなど、
紙の上だけでは実物がどのようになるのかを確実に理解することは難しいことです。
図面や見積りで確認をしておかなければならないことへの理解を深め「見える」ようにすることで、
より安心な家づくりを進めていくことができます。
業者との間で、なぜトラブルは起きてしまうのか
新築、改修などの建築工事を行う際には、打ち合わせを重ね、要望を加味した図面と見積書、工事の内容が依頼する内容と相違がないことを確認した上で、契約を結びます。それに基づき実際の工事が行われるわけですが、「言ったはずなのに内容が違う」、「追加工事が多い」などの噛み合わない「ズレ」トラブルが発生してしまうのは、なぜでしょうか。いくつか要因をあげてみましょう。
(1)イメージの共有はできていますか。
工事をする人、打ち合わせをする人、図面を書く人、工事を依頼する人、それぞれが違う人間です。
全く同じことを全く同じように思考できることはないでしょう。依頼者の意図を汲み取り、そのイメージを具体的に形にするためには、打ち合わせを重ねる必要があります。それでも相互の思考や解釈の違いによって、誤差やズレが生まれてしまうものです。
だれが何を言ったのか、何が決まって何が決まっていないのか、あとから読み返してわかるように打ち合わせの議事録、メモを取りましょう。業者さんから議事録をもらうようにして、内容に食い違いがないかを確認しましょう。
(2)わからないことをわからないままにしていませんか。
家を建てること、改修をすること、非日常的な出来事に集中できれば良いのですが、これまで通りに日常生活も継続していきます。生活サイクルの中に新たに非日常の時間を割かなければなりません。そして初めて経験することや知らないこと、わからないことにも多く出会うのですから、理解しながら前へ進めていくことは大変な作業です。
「今度聞けばいいか……」などと先送りにしないで、気になることはどんどん聞いて理解を深めましょう。次から次へと疑問は湧いてくるものです。大抵は心地よくわかるように説明をしてもらえます。わかったふりは禁物!
(3)理解できていると錯覚していませんか。
図面やスケッチ、模型やサンプル、3Dのパース、シミュレーション動画をはじめ、双方のイメージを共有化するために見えないものを視覚化した、各種の資料を確認し合うことでしょう。とても大切なプロセスではありますが、これらはあくまで現物とは異なる2次元の世界。実物ができ上がってくると「こんなに狭いの?」「天井が思ったより低い」などと違和感を覚えることもあります。紙の上の図面や画面の中の動画などの2次元を見た上で、3次元に変換。立体や空間をイメージする作業にも、個々の感覚にズレが生まれてしまうのです。
通路の幅、天井の高さ、広さなどなど、身の廻りにはたくさん参考になるものがあります。スケール(巻尺)などを一つ用意して、図面と照らし合わせながら、いろいろな寸法を体験してみましょう。ショールームにいったりサンプルをみたり、触ったり、日頃からいろいろなものに興味をもち、体験を重ねてみましょう。提示された情報を受け入れるだけでなく、図面にある情報をできる限り頭の中で組み立てて体感することも大切です。難しくとらえずに、少しずつ楽しみながらトライしてみましょう。
(4)担当になる方は本当に大丈夫ですか。
もちろん、専門家にお願いするということは、先に示した1〜3の内容についても十分考慮しながら、水先案内人として良い方向へと導いていってくれるのは間違いないことでしょう。
しかし、工事を依頼した担当者の力量と経験が不足すると、そう安心しているわけにもいきません。回答が曖昧であったり、口先が上手かったり、簡単に「大丈夫です。できます」などと受け合う人には注意しましょう。お客さんとのやりとりが上手な、いわゆる「営業トーク」だけの人には、要注意。打ち合わせのやりとりが、確実に設計や現場にリンクしているとも限りません。しっかりした営業や担当者はお客さまへも安心を与えながら、設計、現場にも確実に要望を伝えることができます。
曖昧なことは、どんどん確認。なにか不安を感じたら担当者を代えてもらいましょう。
もしくは、他の業者で検討をし直す決断と勇気も必要です。設計や現場に要望や意志が伝わっているかについてはとても難しい問題です。その会社と担当者でこの先続けていけるのか、重要な判断をしなければなりません。
(5)見えないところは見えていますか。
「プランや間取り、キッチン、お風呂、フローリングや内装のイメージも伝わったし、あとはできるのを待つだけ」と、楽しい充実した時間を過ごすことができたのは、何よりだと思います。
そのことよりも、とても大切なことがあります。時間をかけて作り上げた大切なイメージとその中でこれから始まる新しい生活を守ってくれる、「家そのもの」について確認することが重要です。
地盤、構造、耐震性、防水性、耐久性、断熱性、給排水設備、電気設備、空調設備をはじめ、壁や床、天井の中にあって、仕上がってしまうと見えなくなる部分です
見えないところにお金をかけることには抵抗があると思われます。だからこそしっかりと内容を確認し、施工が実施されているかを確認することが大切です。図面で確認し、現場で施工中の確認と施工は確実に行いましたという証しである施工報告書を出してもらい確認しましょう。
(6)図面と見積書の内容を理解できていますか
「レイアウトや配置、プランなど、すべての要望は図面に反映されているようだから、何も問題はなさそう。見積書も細かいことはわからないけど、担当者が全部入っているから大丈夫と言っていたので、おそらく問題ないでしょう」
たしかに、だいたいのことは図面に書かれているようです。しかし、設計と工事の専門家が見るといろいろ不安要素が見えてきます。サッシが入らない、断熱が取れていない、構造がプランと合っていない……。詳細な検討や確認がなされていない図面で契約をして、現場が始まってしまっているケースがあるのです。昨今そのような事例を多く目にします。現場では配管が通せなくて、不用意に梁に穴をあけてしまうなど、結果として図面との整合性が取られた工事ができなくなることにもつながるのです。
建設会社、工務店、リフォーム会社、設計事務所、建築士、施工管理技士などの名前や登録があれば、問題なく建物は建ててもらえると考えることでしょう。それは当然のことであり、そうでなければなりません。しかし悪い風潮として、おしゃれな雰囲気で誘惑し、安く、楽しくできそうな演出によって、受注を増やすことが目的化してしまい、本質であるはずの“作る”ことがお座なりで、どこか希薄になっているように感じられます。
一番大切な図面と見積書については、時間はかかりますが、わかるように説明をしてもらいましょう。それでも、全てを理解することは難しいことです。依頼者が専門家に任せたのだから、しっかり安心できるものを提供することが請負った専門業者の責務です。しかし、現実を踏まえると工事と設計に精通した専門家に、図面と見積書を見てもらうことが肝心です。契約をする前にすべき重要なことの一つとして検討してみてください。