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2016-03-31

中古住宅:アメリカカンザイシロアリの被害

〜 築50 年近い、中野区の住宅改修工事の実例 〜

建物の要にアメリカカンザイシロアリ発生

建物の要にアメリカカンザイシロアリ発生

注;アメリカカンザイシロアリは他のヤマトシロアリなどの類と害性が異なります。
本文中の『シロアリ』の表記は、アメリカカンザイシロアリのこと。

写真は建物の外周面開口部についていた掃き出しサッシ下の状況。室外気と室内気の境界にあたり、雨水を受けて湿気が溜まりやすい箇所です。

敷居と土台の間に粉粒のような山があります。これはすべてシロアリのフンです。

シロアリのフン

敷居右側を巣穴の状況が見えるように木の表面をめくってみました。

シロアリの巣穴の状況

左側の敷居のように巣穴は見えず、フンだけが山のように溜まっています。落ちている先を探すと、木材に小さな穴が見つかりました。その奥は上の写真のように巣穴が広がっています。

表面的にはフン以外に異常はないように見えます。しかし、シロアリは木材の内部を食べ進んで、巣穴を拡大していきます。年輪や節などの硬いところは食べずに軟らかいところ(白太)をきれいに食べ進んでいきます。そのため、木材の中身は空洞化、棒などで叩くと軽い音がします。
バームクーヘンの焼目だけを残して食べるかのような、器用な食性があるようです。

どこから入ってきて、どこにいる? 侵入経路と繁殖箇所

シロアリの侵入経路と繁殖箇所

上記写真は部屋の境目となるドアの下の敷居(床面)。
暖かく、湿度の高いダイニングと冷たい床下の間に空気の流れが生まれて、湿気が滞留。
シロアリの繁殖を促したのかもしれません。

「アメリカカンザイシロアリ」という名前から乾燥した材を好むような文献もありますが、この建物のシロアリの被害状況を見ていると、やはり湿気を好むように感じます。少しでも水分を含んでいる方が軟らかく食べやすいのかもしれません。
少しでも水分があれば、乾燥した木材にも巣食うのですから、他の類の「ヤマトシロアリ」などに比べるとタチの悪い害虫です。建物が新しくても古くても彼らのターゲットと成りうるということでしょう。

さらにタチの悪いことに、暖かくなって、湿度も上がる6 月あたりから(東京)羽化。
羽を持って飛来するため、侵入方法は床下からだけではなく軒先から天井裏や屋根裏へ、あるいは戸袋から壁の中や天井裏へと、あらゆるところが侵入経路となるのです。

5 年前に駆除業者が対策済み。その効果は?

こちらの家では、改修工事の5 年ほど前に専門駆除業者が入りました。
しかし、シロアリは繁殖し、さらに劣化を進行させていたことがわかりました。

薬剤の噴霧や、木材への注入によって対策を講じたにも関わらず駆除できなかったのはなぜでしょうか。今回いくつか試してみることにしました。

シロアリに直接薬剤をかけてもすぐにダメージをうける様子はありませんでした。
しばらくすれば動かなくなったので、気持ちよく駆除できたという感じは得られませんが、薬剤に一定の効果はあるようです。

直接薬剤がかからないと効果が得られないのであれば、薬剤を木材の表面だけに噴霧した状態で木材の内部にいるシロアリに効果があるのでしょうか?

薬剤が浸透するように巣穴がある木材に、ハケで丁寧に何回もまんべんなく塗りつけて、翌日になってから小さな巣穴を裂き広げてみると、シロアリは健在でした。
薬剤を大量に塗布したとしても内部に巣食ったシロアリには効果はないようです。

ただ、時間はかかってもシロアリが湿った、軟らかいところを蝕むのであれば、いずれ薬剤のしみたところを食し、駆除ができるのかもしれません。

新たに飛来したシロアリの場合、木材の表面についた薬剤には触れることになるため、予防対策にはなるものと考えられます。

専門業者もNO という・・・、実情を踏まえてベストをつくす

今回、改修工事の際に専門駆除業者に相談。駆除作業を依頼しましたが、保証の問題もあってアメリカカンザイシロアリに対しての駆除作業はできないと、かたくなに断られました。
「駆除してもらったはずなのにまたシロアリが出た」といったクレームが多くあるとのこと。
独自ではあるが先の実験で塗布しただけでは簡単に駆除できないことからも、理解できる業者の対応と思いました。

とはいえ、こちらとしてはなんらかの処置対策はしたい、というのが人情です。
「業者さんの実情を踏まえ、理解をした上で、クレームも返さないので薬剤の散布をしてくれないか」とお願いしてみたものの、それでも丁重に断られてしまいました。しかし、その責任感のある対応に信頼を覚えたのも事実です。

こちらも引き下がるわけにもいかないので最終的には、「通常の保証対象としているヤマトシロアリの駆除の作業でかまいませんが、その噴霧器の先を床下だけでなく、壁や天井、屋根に向けて全体にかけてくれませんか」とお願いしたところ、なんとか対応してもらうことができました。

実はその後、自ら市販されている防蟻剤を買ってきて噴霧器でさらに塗布しました。
業者には無理にお願いしていることもあり、噴霧する量や、木材が重なる箇所、塗布しにくい箇所への施工は十分とはいかなかった感もあります。これは仕方のないことです。
また、今回改修する部屋はスケルトンになっているので、その隣接する部屋の天井裏や壁内部などにも噴霧器のノズルを伸ばしできる限り、予防対策がとれればとの思いもありました。

もし、アメリカカンザイシロアリに出会ってしまったら

部屋の壁際や、外壁の周囲などにオガクズのようなフンの山がありませんか?
もし、見つかったら食害が進んでいる状況です。シロアリの数を増やさない、被害を広げないためにも、早めの駆除業者への相談、診断、対策が必要です。

通常のシロアリ駆除とは対策が異なるため、駆除、予防に工夫をこらしている業者もあります。しかし、業者の中には説明も曖昧で、安易に請け負う業者もいるので注意しましょう。

残念ながら、駆除は簡単ではありませんし、現時点では完全な駆除は難しいことだと考えています。早めの発見、予防こそが最善の対策ではないかと考えます。

リフォームを考えている場合には、極力内装材や外装材を剥がし、食害された箇所とその範囲を正確に把握。シロアリの駆除と食害のあった部材をできる限り除去、交換することが必要です。交換が不可能な部材は食害箇所を撤去し、部材補強しておくことが最善です。
もちろん防蟻剤の塗布を念入りにして予防につとめてください。
また、食害があった部材は外部での被害を広げないためにも適切な処置をとって廃棄処分する必要があります。

中古住宅で、なにがおきているのか

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