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2016-08-26

マンションの漏水

突然の出来事でした。夜くつろいでいたら水浸しに!

 住人Mさん夫婦が住む、築8年の分譲マンションでおきたことです。調査に伺った際に住人のMさん夫婦から伺った話を元に状況を紹介します。

 夜も遅い時間帯、ソファーでくつろいでいたら「ペシャッ、ペシャッ、ペシャッ・・・・」と聞きなれない、水が滴り落ちる音が静かな部屋に鳴り響き始めました。梅雨ということもあり、その日は一日中降ったりやんだりの天気でした。音を探して外を見てみましたが、そのとき雨はやんでいました。はて?どこだ??。キッチンの水栓の蛇口がしまっていないのか?水のありそうな場所に音を探してキッチンをみてみましたが、水の滴る様子はありません。まだ、音は鳴り続いています。「あっ!ここだ!」音がでていた水たまりを見つけました。

 家具などの物をあわてて避難しよけてみると、床は周辺が水浸しです。「うわぁ・・・結構な量だな・・・どこから入っているんだ?」Mさん自ら水みちをたどり浸水の箇所を探ったそうです。

漏水がおきた箇所

漏水がおきた箇所

浸水箇所はどこにあるのかを調査

 まずは水は上から下に流れることを前提に、雨漏れのあったところの上にある梁型を確かめると、そこに水が溜まった形跡がありました。さらに上を確認するとコンクリートの打継ラインにも水が滲んでいます。梁型の上には漏水によって湿った箇所は見当たらないので、梁型内部の打継ラインと梁型内部の状況を確認するために梁型の一部を開口しました。

 次の写真は梁型の底面を開口したところです。梁型の底面部分を開けてみると、水を多く含んだ状態でした。下地木材にカビが発生していることから、浸水は以前から起きていたことがわかります。今回水浸しの漏水が起こったのは、浸水が持続し梁型内部に蓄積されたのだと考えられます。これまでは、浸水の量や浸水時間が短かったことや内部の下地木材が吸水したり、蒸発乾燥するスピードのほうが早かったことが考えられます。カビがその痕跡を表しています。

梁型の底面を開口したところ

梁型の底面を開口したところ

 次の写真は、打継部分に浸水した水分により白い粉が吹き出ていました。これは「白華現象」と呼ばれるものです。

「白華現象;https://ja.wikipedia.org/wiki/白華」参考までに。

 白華とは. 白華とは、モルタル中の水酸化カルシウムCa(OH)2が、浸入した雨水、雪、霜などに溶けて表面に移動し、空気中の二酸化炭素などと反応し、炭酸カルシウムCaCo3になる現象のことです。」

打継ライン周辺に白華現象

打継ライン周辺に白華現象

 次の写真は梁型の上部を開口したところです。梁型の内部の下地木材が水を含んで湿っていました。内部の上にある木材やコンクリートの壁には濡れた形跡はないようです。

梁型上部の開口確認(打継ライン)

梁型上部の開口確認(打継ライン)

梁型上部を開口した内部

梁型上部を開口した内部

 次の写真は外部の状況です。室内で浸水、水シミのあったコンクリートの打継ラインと室外の状況を計測してみるとレベル(高さ)方向の納まりが同一となっていあることがわかりました。室外の状況をみるとコンクリートの仕上げとは違う防水塗装が後から施工されていることがわかります。その防水塗装の劣化で止水性が低下し溜まった水が室内へと誘引されたことが推測されます。

外部床の状況

外部床の状況

浸水経路を推測する

 調べたところによるとコンクリートの打継ラインからの浸水がとてもあやしい。本来ならば外部の床を内部(梁型天端)より低くして納めるか、止水板等の止水防水対策がなされていなければならない箇所です。その部分への設計、施工時の対策が不足し、コンクリートが打たれた後、恐らくは現場工事中にも漏水があったのではないでしょうか。時すでに遅く、苦肉の索は外部から防水塗装などの処置を施すしかなかったのではないかと思われます。

 設計段階での雨仕舞いの検討不足と施工管理の経験不足により、未然に防げたはずの不良工事が時限爆弾となって発覚したのではないでしょうか。設計の重要さ、工事管理の重要さを感じます。付け焼き刃の後手仕事は、その場しのぎで施工不良であったこと伏せ、時間を稼ぐだけで結末も見えています。こう言った事例は築後すぐに発覚してくれればよいのですが、露見するまでには時間を要します。瑕疵担保責任保険は10年間ですが、10年を超えて発覚した場合には、いったいだれが責任をもって面倒をみてくれるのでしょうか。今回家財への被害は大きくはなかったようですが、被害はお金で解決できる範囲とも限りません。時間も費やしますし、精神的な苦痛への代償は当然ありません。ただただ、無償で修理してくれることに安堵し、気を静めるしかないのも確かでしょう。今回修繕しても従前と同じ方法で外部からの防水しか方法はなく抜本的な改善ではないため、防水が劣化する約8年後には同様な対応に追われることとなります。その頃には当然、瑕疵担保責任保険の期間外となるため、今回のような対応をしてもらえるのか検討がつきません。「保険期間外なので有料になります」と言った、当たり前に保険ありきの発言だけは聞きたくありません。

躯体断面図(浸水の経路)

躯体断面図(浸水の経路)

 

雨漏れは推察し、ひとつずつ要因を潰していく

 今回も浸水箇所の推察により、コンクリートの打継箇所に疑いが残りました。しかし、雨水の浸水経路はとても複雑なケースが多くありますので、疑いをひとつずつ潰すようにして明らかにしていく必要があります。今回のケースでは外部の打継箇所周辺の止水、防水処理を最初に行い、散水テストだけでなく通常の降雨にさらし、浸水がなくなるかを確認する必要があります。時間を要します。経過をみて浸水がないと判断されれば止水完了漏水確認のために取り壊し、見栄えの悪くなった室内の修繕が行われます。工事が終わるまでは避難した家具などはまだ戻すことはできそうにありません。もし、外部の防水により止水がされず漏水が止まらないようならば、他に水ミチがあることになりますので、再調査しなければなりません。雨漏れはとても時間がかかる不具合です。

 もうひとつの問題として、建築時から年数が経っていると内装の復旧をする際に従前に使われていた仕上げ材料が廃盤になっていることがあります。仮に同じモノがあったとしても当時と生産ロットが異なるために色や模様が微妙に合わないことがあります。仕上げ材が見合うモノがない場合には被害のあった壁一面や部屋ごと内装のやり直しといった、想定外の工事に広がり、出費を余儀なくされるケースもあることと考えます。「直せば終わり、改善された」そこで生活をしない工事や直す側はやはり他人事の感は否めません。住人にとっては不満を伏せ、協力するしかないため、良いことはひとつもないのではないでしょうか。そのようなことが起きない建物に住むことがなによりの安心と改めて思えます。

 

 

 

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