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2016-12-09

工事前の図面チェック

rimg5789

設計が終わっていない

 建築工事の施工管理担当者から、「これから建てる新築の木造住宅の図面をチェックしてほしい。」との依頼があった。お客さんは建設会社とプランや各仕上げ、設備などの仕様の打ち合わせを重ね、確認申請を行い、いよいよ着工!となった時、現場を受け持つ工事担当者に「この図面で家を建ててくれ」と、製作に必要な図面や資料が渡される。この段階で家を建てるのに必要なことはくまなく検討され、建築基準法も満足した内容であることが当然だと、だれもが思い疑わないことなのかもしれません。では、なぜ?施工管理担当者は図面のチェックを依頼しなければならなかったのか。

「この図面の内容では、確認しなければならないことが多すぎて工事をはじめられない…」

「このまま、着工したら間違えや納まりの付かないことが多発する」

「作って、壊して、直すの繰り返し。あるいは、管理の眼の届かないところがでてきて、曖昧なまま、それなりに業者は納めて前へ進んでしまうだろう。」

 つまり、設計者やお客様の窓口担当者はお客様との打ち合わせに使った資料や図面らしきプレゼン資料で建物が作れると思っているようである。確かに概要は掴むことは可能ではあるが、「なんとなくこんな感じの建物です」では、実際のところお客様も現場にも良いことではないのです。「なんとなく・・・」でも家は建ってしまうのも確かです。しかし、その曖昧さが欠陥住宅などの問題を含んだ建物となることも確かです。「なんとなく」の仕事はできない、建築に関わるプロとしての責任から、施工管理担当者は図面のチェックを依頼したのです。

段取り良くするために

 工事に着手したら、工程に乗せて段取り良く、停滞しないように前へ前へと進めていかなければなりません。必要最小限で最短の工程を組み、効率よく工事を行うこと。無駄なお金をかけないことがお客様のためでもあり、会社のためでもある。

 そのために施工管理を行う人は、工事に着手する前に一度、頭の中で建築するモノを組み立てるシミュレーションを繰り返します。それをもとに、各工程での検討事項、注意事項について事前確認、検討、対策を練り、計画を企て、工程表を作成します。着工前、すでに仮想現実空間で家を1棟建てているようなものです。そして、現実の工事が始まると、その仮想を現実との微調整を加えながら落とし込みを行います。本番は実質2棟目の建築作業ともいえるでしょう。

 現実の現場では、天候や資材の仕入れトラブル、近隣対応など予想ができないことにも対応しなければなりません。もし、仮想でのシミュレーションでリスク想定や、設計の検討不足による不具合を検証し準備していなければ、現場の不測の突発事項と合わせて大混乱が起きることでしょう。準備のできていない施工管理者に、その混乱を乗り切ることは難しいことと考えます。工程は狂い、いろいろな職種の作業が交錯し、現場は雑然とした状況に陥ります。そのような環境で良い仕事ができるはずもありません。そんな不具合は連鎖し、最後はつじつまを合わせて「なんとなく」バタバタと終わりを迎えることになります。見た目は綺麗に仕上ったと思われるかもしれません。クロスや塗装の仕上り、傷や埃、工事の施工忘れ、隠蔽された箇所はどのようになっているのか、などなど不安はつきまといます。

着工すると難航する図面とは

 図面をみて仮想で家を建てることに難航する図面は、建築の内容が複雑で難しいからではありません。では、どういう図面に問題が含まれているのでしょうか。これまでに図面チェックをしてきて、次のような傾向があるようです。

図面の寸法が不足している。

 図面は言葉の代わりに、製作する人たちに設計者の意図を伝える手段です。何をどのように、何に気をつけて造らなければならないか、設計者は図面だけでなくスケッチや資料を付け加えながら伝えなければなりません。寸法のない図面、小さい文字、同じような太さの線が交錯して何の線だかわからない、どこの寸法か解らな表記は、意図を伝える気持ちも伝わりませんし、造る相手のことを考えていない証でもあります。当然、あらゆるところの検討がおろそかとなっているようです。

 設計者は空想のイメージを具現化する為の第一歩として、2次元の図面、スケッチ、3次元の模型などを使って「こういうものを形にしたい!」という想いを表します。その想いを形にすることが不完全で「モヤモヤ」っとした状態では他人へ意図は伝わりません。製作にかかわる現場の人たちは、それでもその図面を読み、作業をしなければならないのです。読みにくい図面を目の前にして、職人さんは果たして前向きな気持ちで仕事ができるのでしょうか。

内容のない図面が多い

 枚数があれば、契約書類として見栄えもするのでしょう。しかし、中身の薄い図面は読まれず、つかわれることはありません。また、各図面との整合性も取られていないことも多いので、誤解を招く要因でもあります。

:寸法のない、線だけの図面や必要寸法がかかれていない図面。

:空欄の多い仕上表や仕様書。

:他の現場から転用されたままのフォーマット化された仕様書や図面。

:市販されフォーマット化された標準仕様書を添付しただけで、現場に必要な内容が抽出されていない。

 添付した設計者が、標準仕様書の内容を理解していない方もいるようです。一般的なことを漏れなく記載された仕様書なので汎用性があり、設計図面に書けなかったことや忘れていたことも、「標準仕様書に書いてある」という言い逃れに使う方もいるようです。保険の契約書の記載書類の裏側に細かい文字で書かれた文字は読みにくいのと同じで、施工管理者は標準仕様書には目は通しますが、現場の職人は読むことはありません。一般的な書き方にもなっているため、現場に即した表現となっていないこともありますので、誤解のないように仕様書も添付し、図面でも指示事項は表記すことが、設計者が意図を伝えるという意味でも親切ではないかと感じます。

:スイッチ、コンセント、仕上や天井裏、床下との取り合いがわからない展開図の羅列。

:各部詳細の納まり図がない。

 いち設計者として感じるのは、詳細の納まりや柱や梁などの取り合いを図面化しないで、よく全体の図面を確定し、描けるものだと感心します。そういったものなのでしょうか。

各部の取り合い検討がなされていない。

 建具の納まり、屋根と軒先、トイの納まり、サッシの納まり、壁と天井、壁と床、各仕上げの取り合い、などなどあらゆる種類の素材が交わるところ、タテとヨコ、斜めと各箇所の面や角が交わるところ、納まりの検証が不十分。CADで拡大して書き込む必要もなく縮尺が1/100、1/50などの図面ではなんとなく線があれば『絵』として見えることとプレゼン資料としては影響もない。そのまま検討されずに終わってしまっているようです。

立体的な検討がなされていない。

 窓の上にはエアコンの設置スペースがとれないのに、平面図では配置されている。平面図では配管のスペースが確保されていたとしても、天井裏のスペースが足りていなかったり、梁貫通しなければならない状況となっている。天井高さが確保できない高さで展開図がかかれている。

木造軸組や構造部材の理解がなされていない。

 耐震上必要な耐力壁などに取り付ける金物が施工できない。耐力壁に必要な下地組ができない。必要以上の梁のサイズや無駄な材がある。プランが理解されないまま構造図が進められている。設計者もそれを指摘することなく現場に図面が渡されている。設備配管等の梁貫通箇所が指示されていない。構造設計者も専用ソフトに頼り、木造の納まりなど理解していないまま設計していることがあるようです。それを是正するのも基本の設計を行う者の役割なはずですが、ノータッチと言わんばかりにプランとの整合性が取られていない図面を目にします。構造設計の不整合や不具合は、確認申請の書類も変更届けが必要になるのではと、心配になります。「うやむや」とさせてしまっているのか、工事着手させながらも「うやむや」っと変更届けを出しているのかわかりません。

設備配管の検討がなされていない。

 給排水設備や空調設備の配管や電気配管などのスペースが考慮されていない。平面図にパイプスペースはあっても各階への立面ルートや配管長などが考慮されていない。断熱性能や気密性能、耐火性能を唱った仕様にも限らわず、欠損箇所の仕様指示がなされていないようです。

承認図が揃っていない

 キッチン、ユニットバス、トイレ、洗面台、換気扇、水栓金物、アクセサリー、建具、サッシ等既製品の最終仕様と図面の整合性がとられていない。品番が古かったり、廃番製品での記載がある。天井付け不可の製品が天井に付けられていたり、製品の施工要領を加味した設計がなされていない。

お客様窓口となる営業、プランを作る設計、構造、設備のすり合わせが足りない。

 作業が分業化され、それぞれにそれぞれの解釈でそれぞれの範疇で仕事が完結し、「予算は営業が見てるから指示通りに図面を描くだけ」「プラン見せて構造設計担当にまかせているから大丈夫」「設備は現場でなんとかしてくれる」などなど、それぞれが他人事で、全体としての調整が足りないように感じます。

設計がモノの用途、素材特性、製作、工事過程を理解していない。

:図面をみるとコンクリートの壁に木製の棚板が唐突に何枚か描かれている。どのようにして棚板を固定させる考えなのか?平滑ではないコンクリートの壁に所定の位置でビス固定しなければならない木下地用の棚柱を取り付けるようになっている…。棚柱の許容耐荷重を超えるであろう棚板の枚数、棚柱の使用強度は確保できるの?そもそも施工はできるものと考えているのか?

:鉄とアルミとステンレスを組み合わせた手すり?異種金属の電解腐食を理解しているのか?

:20ミリの厚みの木製棚板を1500ミリの幅でつくる?荷物を載せたらたわむに…大丈夫?

:仕上がりで1200ミリの幅の空間に1200ミリの家具を納めるの?クリアランスはみないと…。

:図面通りのレイアウトで電気配線が終り、ダウンライトの開口がされているのを現場で見て、あるいは工事が完了してから「この位置じゃない。コッチに移動して。」

:決めたクロスを貼ったのに、「イメージと違うから張り替えて」

:図面通りにつくった「カウンターの高さが高すぎる」

:設計図に基づき、階段のスチール手すりを製作を行い現場へ納めた。しかし手すりに触ると強度不足のため「ユラユラ」たわんでしまう。材料の特性と強度を理解しないまま、なんとなくのイメージだけで進めてしまう。

プランと確認申請用の図面作成で終わっている。

 端的に傾向をいうならば、確認申請に必要な図面作成とお客様との打ち合わせに必要な平面的な配置計画で設計の作業が終わってしまっているのではないかと感じます。つまり、現場に渡される図面は、お客様へのプレゼン資料であり、設計が完了していないのです。機器と建物、材料と建物の取り合い、個々のパーツがバラバラに図面上に貼り付けられただけであり、整合性がとられないままの状態。このような検討不足の図面が現場に廻り、力量のない施工管理担当に現場が預けられたらどうなるのでしょうか。夢や理想を持って、しっかりとした建物が出来ることを信じている施主・お客様の期待を裏切ることにもなりかねません。

 会社も仕事がなければ何も始まらないことは否めませんが、営業だけはでなく、設計者や施工管理者までもが会社の利益追求に比重を取られ、傾倒し、「あとは、現場でお客様に渡せるものを造っておいて」と、プレゼン資料を渡されて、職人さん任せとなっている風潮が昨今強く感じられます。一人で10物件の現場の設計や施工管理を割り振られれば、それぞれの役割を責務を持って全うすることもできない状況なのかもしれません。そういった状況により生まれる不具合のしわ寄せとリスクは高まり、すべて施主となるお客様が費用とともに負担することになるのでしょう。

 利益追求のサイクルに乗せられないよう、依頼先の建設会社やリフォーム会社へも建築専門だからと安心せずにしっかりとした見極めをしていく必要が消費者となる施主となるお客様にも求められる時代なのでしょう。

「良い意味」で、期待を裏切られたい

「イメージと違う」

「コンセントやスイッチはここにも欲しかった」

「収納スペースが足りない」

「使いにくい」などなど…

 工事が始まるまでは、ショールームやモデルハウスなどできる限りの体験はされることと思われますが、ほぼ2次元の図面上だけで話を進めてきたことでしょう。図面上から立体的な空間をイメージすることには慣れが必要なところもありますし、不得意とされる方もいらっしゃいます。現実に造り上げられていく立体を体感してはじめて空間を理解できるため、「こんな風になるんだな」と言う良い意味の驚きと「ここはこんなになってしまうの?」と言う残念な意味の驚きがあることと思われます。お客様の要望やイメージを汲み取れず、アドバイスや説明が足りていないと残念な驚きは多くなるのではないでしょうか。想いを伝えきれていない図面は、お客様のイメージを汲み取りきれておらず、現場へも意図が伝わっていきません。それは、出来上がる建物にも反映されるものです。

良い建物になるかは、最後の砦に委ねられる

 今回、現場の施工管理担当から依頼があり、図面のチェックを行うことで、工事着手前のギリギリの水際で不具合の抽出ができました。不具合を質疑事項として設計や営業に差し戻して、幾つか回答をえることはできたとしても、それでも大変な現場になると思います。そもそも意識をもって設計の責務を行っていれば、このような不具合は多く発生しないのです。実の話として、その施工管理者が話すのは「質疑を返したところで、問題意識が薄いことと、質疑の意味を理解していない」とのこと。残念ではありますが、そのような設計者が多くいるようです。

 したがって、現実には現場施工管理担当者や各職人レベルで設計をしながら納めていかざるを得ないことが山積し、施工管理の仕事にプラスして設計の負担が強いられることとなります。良い建物をお客様のために造り上げたいという良心的でプロフェッショナルな最後の砦に委ねられることになります。

 一方でそういう想いを持った施工管理担当者や職人さんばかりではないことも知っておかなければなりません。当然、そのような現場では建物が引き渡されてから不具合やトラブルが起きることも考えられます。

 着工前の図面チェックは実施に向けて最後のチェックです。本来ならば、契約前にしっかり図面のチェックを行うことを強くお勧めいたします。プレゼン資料で終わっていないか、現場で使える図面になっているのか、建築のプロであり、設計と施工管理を見てきた私たちにご相談ください。Pプラスがサポートいたします。

 

 

 

 

 

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